今後海外での活躍が期待されるソプラノ歌手 砂田愛梨

砂田愛梨(すなだ あいり)は日本のソプラノ歌手

2023年現在イタリア、ミラノ在住だそうです。
経歴の詳細については本人のHPのプロフィールを参照頂くのが良いかと思います。

コンクールや研修所などのオーディション片っ端から受けまくってるな~という印象を受けるのですが、
その中で、一か所
「2019年 第1回ニコラ・マルティッチ国際声楽コンクール ファイナリスト(イタリア/ルッカ)」、
往年の名歌手の誤字はまずいので、訂正して欲しいところ。
入賞しているだけでこれだけコンクール受けているとすると、この倍以上は受けてると思うので、そのバイタリティだけで個人的には感服します。

そして指導受けてる講師については、東京音大でコロラトゥーラを得意とするソプラノと言えば釜洞祐子氏。
コレは鉄板である。

更にイタリアではルチアーナ・セッラにも習っているということで、ある意味理想的な指導者に恵まれたと言えるかも。

日本人ソプラノ、セッラ氏に習ってる人多い。
軽いソプラノでイタリアに留学する方は、かなり高い確率で一度は指導受けてることがプロフィールに書かれている気がします。

 

それでは実際の演奏を聴いてみましょう。

 

 

ドニゼッティ 『サン・ドミンゴ島の狂人』 Se pietoso d’un oblio

 

 

 

 

このオペラは存在は知っていたけど、CD音源は見たことあるけど、楽譜も見たことないので、よく探してきてコンクールで歌ったなぁ。という、まずそこに驚いてしまう。

いざマニアックなオペラのアリアを歌おうとすると、今はPDFで落とせるサービスが充実してるとは言え、中々マイナーなオペラのアリアはそれでも入手が難しくて、楽譜があっても当然アリア集なんかには入ってないので、アリア1曲歌うために、全曲のスコア買ったりしないといけないんですよね。

学生ならまだ図書館にあればコピーできるけど、卒業した後は中々そういうこともできないので、そういった事情もあって、マイナーな曲を発掘して演奏会のレパートリーに入れるというのは、歌曲よりオペラアリアだと特にハードルが高い。

前置きが長くなってしまいましたけど、 砂田さんの演奏は、
まず喉を押してないのが良いですね。

押してないので、低い音域でも、小さな音だったとしても響きがちゃんと乗っているので、日本人の高音を得意とするソプラノによくある中低音がスカスカになったり、高音と音色変わってしまう現象が起こらない。

そして、技巧的なパッセージがとても丁寧。
息の量の調節が上手くできているのだと思いますけど、ベルカント作品の軽やかなアジリタが出来ているのが素晴らしい。

これが、ヴェルディの椿姫とかそれより重い作品になると、もっとここに下半身と連動した重さというか、深さがないと劇的な表現としては向かないのかもしれませんけど、ロッシーニやドニゼッティはレガートでこのくらい軽いアジリタがしっくりくる。

同じアジリタでも、時代によってバロック~ロマン派作品以降で技巧の使い方で実際どう違うのかは、歌手によって言うことが違って難しい部分がありますし、何より、マリア・カラス以後、ベルカント物がヴェリズモ的な技術で歌われるようになったと意見があって、実際カラス以前の軽いソプラノの演奏を聴くと、浅い声に聞こえてあまりなじめない方もいらっしゃると思いますので、伝統的な発声技術と言いつつ、時代の流行によって変化し続けていることは間違えないです。

 

プッチーニ 『ラ・ボエーム』 Mi chiamano Mim

前の演奏が2021年で、この演奏が2022年なのですが、
随分発声が違う。

意識的に変えているのか、環境が大きく変わったのか、それはわかりませんが、
何にしても、良く言えば明るく前で発音している。
悪く言うと、典型的な日本人声になってしまっている。
特に開口母音の音質が平べったくなり易く、なぜムゼッタではなくミミを歌ったのか?という疑問が残ります。
こういうレパートリー選びって、些細なことなようで、フォームに大きく影響してきますから、こっちの方向の発声になってしまうともったいないなぁ。というのが正直な感想。

歌っている時の姿勢を見ていても、前で手を組んでいることが多くて、これも意識的にやっているのであればまだ良いのですけど、無意識なのだとすると、非常に勿体ない。
こういう姿勢になるだけで身体が開かなくなるので、声を開放しないといけない作品でフォルテを出そうとすると、どうしても必要以上に圧力に頼ってしまうことになる。
そういう意味でも、個人的な希望としては、あまりヴェリズモは歌って欲しくはないかな。

 

 

ドニゼッティ 『ドン・パスクワーレ』 Quel guardo il cavaliere

この演奏が、今年(2023年)5月のもののようです。
やっぱりプッチーニよりドニゼッティ歌った方が声が整うと感じるのは私だけではないと思います。

そういえばプロフィールに、マチャイーゼ Nino Machaidze()に師事してる旨の記載がありましたね。
ってことで、ご存じない方もいらっしゃると思いますので、マチャイーゼの声も参考までに聴いてみてください。

 

 

Nino Machaidze

この演奏は今年のものなんですけど、砂田さんと響きのポイントが無茶苦茶近い。
鼻と上の前歯の間~頬骨辺りなんですけど、
このポイントは確かに発音が飛ぶし、この部分には絶対響きがないといけないと思うのですけど、ちょっと圧が強すぎる気がする。

実はマチャイーゼ、有名になる前に注目してて絶対トップクラスのスター歌手になると思ってたんですけど、フォーム崩してこうなってる。というのが私の見解だったりします。

 

 

 

 

 

2010年頃のマチャイーゼの演奏

発音は確かに前にあるんですけど、響きのポイントはもう少し後ろ。
そうでないと、どうしても刺さるような鋭い声になってしまうし、空間を包むようなピアノの表現もできない。
2021年の、サン・ドミンゴ島のアリアを歌っている時の砂田さんの演奏は、発音こそちょっと奥まってはいるんですけど、ピアノの表現の方向性が若い時のマチャイーゼに近かった気がします。

限られた情報からと言うのもあって、かなり好き勝手書いてしまいますけど、
歌っている表情や口の開ける方なんかを見る限り、唇にまだ力みがあって、その影響で舌にも硬さがある。だから喉がまだちょっと上がったような感じになっている。
そんな気がします。

とは言っても、良いポジションで、上から下までコントロールできる技術を持っていらっしゃいますし、素直な歌い方をされているので、まだまだ演奏は変わっていくのではないかなと思います。

そういう意味でも、今後の活動に注目したいと思います。

 

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